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藤宮若菜さんの第1.5歌集
まだうまくことばにできるような気持ちではないけれど、ことばにしないと、ことばにしないと、ってわたしがいっている。
あなたがめのまえにきてくれたとき、わたしはあなたのことがすぐにわかって、だってぜんぶが、あなたで、頭のなかが真っ白になって、声もでなくなってしまった。もう会えないとおもっていたから。わたしなんかにはぜったいに会いたくないだろうとおもっていたから。それなのに、わたしのところにきてくれたこと、うれしかった。すごく、びっくりした。どうしたらいいかわからなくて、いちばんさいしょにあなたの名前を呼んだこと、気がついたかな。ぜんぜん呼べていなかったような気がする。あなたの名前を、あなたに向かって声にだしたのがあまりにひさしぶりすぎて、それでもその名前はわたしのくちびるにびっくりするくらい馴染んでいて、涙がにじんだ。
伝えたいこと、なんにもいえなかった。ごめんね、とか、ありがとう、とか、そんな単純なことばすらいえなかった。でもすこしだけ、話せたね。あなたの方言をきいたとき、ほんとうにかわいくてなつかしくて、くるしかった。この声を、この声でわたしのなまえを呼んでくれるのを、何時間もきいていられたあの頃のわたしはなんてしあわせだったんだろう。
会えてよかった、っていうのは、もう頭とかじゃなくて勝手にくちからでたことばだったよ。あの日の、あの約束みたいに。全身が、あなたに会えてよかった、って、そういっていた。
あなたが別れ際にくれたことばをずっと、ずっと、思いだす。生きる、ということをこんなにつよく意識したのは、あなたと一緒にいられた日々以来だった。わたしはあなたの、最後の、生きて、だけをたよりに、なんとか生きてきたから。ただ約束をまもるために、過ぎていくまいにちをこなしていたから。でもあのとき、からだがあった。そこにあなたの、からだがあった、それだけでなにもかんがえられなくなってしまった、ただ、抱きしめたくてたまらなかった。どうしてわたしたち、さよならをしなきゃいけないんだろう。どうして、どうして、って、ぜんぶわたしが悪いのにそうおもった。
わたしがわたしでがっかりしなかったかな、歌集にがっかりしなかったかな、わたしがあなたをわかってしまったこと、いやじゃなかったかな、っていつまでもぐるぐるかんがえる。
これからまたなにも書けなくなるのかもしれないとおもっていたけど、会ったらもっともっと書きたいことがたくさんあって、あなたはいつもそうやって、わたしを生かしつづけて、ことばを書かせてくれて、なんでこんなにって、泣いてしまう。
あなたがまた会いたい、といってくれるから、わたし、また生きていかなきゃいけなくなっちゃったよ。また会えるかもわからないのに、生きていかなきゃ、いけなくなっちゃった。ほんとうは、なんども約束を破りそうになったんだ。ごめんね、ごめんね、っておもいながら、なんども終わろうとした。でもね、あなたに会えたから、生きつづけたことは間違いじゃなかったんだって、そうおもった。わたしにそんなことおもわせるの、いままでもこれからもずっとあなただけだよ。
この歌集はたくさんのひとの手に渡り、そのひとりひとりにいろいろな感情がうまれるのだとおもう。それでも、この歌集はあなたのものです。あなたのための、あなただけのことばです。
わたしを生かしてくれて、ありがとう。好きでいてくれて、ずっと、をくれて、ありがとう。会えてよかった。わたしはあなたのことがだいすき。ほんとうにずっと、だいすきだよ。
(本人noteより)