
ここに生まれて ここがどこだか まだわからない耳を澄ますと遠く聞こえてくる声わたしはひとつの声であり、また多声である過去を、未来を、今を、短歌は不安な世界をどう聞き取るのか。
『歓待』から四年、あらたな方法を携え挑戦する一冊。
【歌集より】あの川に兄が浮かんでこの沼に父が浮かんで 睡蓮咲いたウォーターリリーこんなしづかな戦場がここにウォーターリリーの姿に咲いて生きるとはこのやうにリボンつけることリボンのうれしさ焼け残る服わたくしは牝鹿に還り舐めにゆくウラニウムなほも鎮まらぬ火を睡蓮の気持ちは人類誕生以前から変はらないまま 会へない人よ
装幀=毛利一枝
【目次】
Ⅰ
ウォーターリリー
睡蓮とオオオニバス
渚
白鳥
睡蓮について
Ⅱ
船歌
地球儀の海
鮟鱇と暮らす
アマビエの海
留まるべし
蛸のいちにち
正倉院展
ポケットの穴
仁王像
Ⅲ
鶴の折り方
イオンエンジン
熟れ過ぎた果実
うごく水
イ・カ・タ
ドミノ
杼の鳥
雪
Ⅳ
浪漫飛行
2時間40分
歯ブラシ讃
パピルスに遠く
カナリア
氷壁
水仙光
眩輝
あとがき
【著者略歴】
川野里子(かわの・さとこ)
歌集に『王者の道』(若山牧水賞)、『太陽の壺』(河野愛子賞)、『硝子の島』(小野市詩歌文学賞)、『歓待』(読売文学賞)など。
評論に『幻想の重量—葛原妙子の戦後短歌』(葛原妙子賞)、『七十年の孤独-戦後短歌からの問い』など。
歌誌「かりん」編集委員。
2008、2009、2023年度「NHK短歌」(Eテレ)選者。
(著者プロフィールは短歌研究社ホームページより引用)