アンゴラの名手によるめくるめく物語
語り手は一匹のヤモリ。アンゴラの首都ルアンダで、フェリックス・ヴェントゥーラの家に棲みつき、彼の生活を観察している。
フェリックスは、人々の「過去」を新しく作り直すという一風変わった仕事をしている。長年にわたる激しい内戦が終わり、アンゴラには新興の富裕層が生まれつつあるが、すべてを手にしたかに見える彼らに足りないのは由緒正しい家系なのだ。そんな彼らにフェリックスは、偽りの写真や書類を用いて新しい家系図と「過去」を作成して生計を立てている。
ある日、フェリックスのもとを身元不詳の外国人が訪ねてくる。口髭を生やし、古臭い服装をしたその男は、「名前も、過去も、すべて書き換えてほしい」と頼み、大金を積む。フェリックスは悩むが、結局、ジョゼ・ブッフマンという新しい名前をはじめ、すべてを完璧に用意する。彼は大喜びし、以後、足繁く訪ねてくるようになる……
ボルヘス、カフカ、ペソーアを彷彿とさせながら、アンゴラの非情な内戦が残した深い傷痕を、軽妙かつ詩的でミステリアスに綴る。25の言語に翻訳、2007年度インディペンデント紙外国文学賞受賞作。
【目次】
夜行性の小さな神
家
外国人
声を満載した船
夢 第一番
アルバ
ジョゼ・ブッフマンの誕生
夢 第二番
光彩性物質
ヤモリの哲学
幻想
わたしが死ななかった最初の死
夢 第三番
ウィンドチャイム
夢 第四番
エウラリオ、それはわたし
子ども時代に降る雨
生と本とでは
小さな世界
蠍
大臣
厳しい歳月の実り
夢 第五番
実在の人物
あっけない結末
平凡な人生
エドムンド・バラッタ・ドス・レイス
愛、犯罪
ブーゲンビリアの叫び
仮面の男
夢 第六番
フェリックス・ヴェントゥーラ、日記を書きはじめる
【著者プロフィール】
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ (ジョゼ エドゥアルド アグアルーザ) (著/文)
José Eduardo Agualusa
1960年、アンゴラのノヴァ・リスボア(現ウアンボ)でポルトガル・ブラジル系の両親のもとに生まれる。大学はリスボンに渡り、農学を専攻するが、文学に目覚め、ジャーナリストを経て作家となる。1989年にConjura(『まじない』)でデビューして以来、精力的に作品を発表。2004年に刊行された本書は、英訳The Book of Chameleonsが2007年度インディペンデント紙外国文学賞を受賞。2012年に刊行された『忘却についての一般論』(白水社刊)は、ポルトガル国内で翌2013年のフェルナンド・ナモーラ文芸賞を受賞。英訳A General Theory of Oblivionは2016年度国際ブッカー賞の最終候補作に選ばれ、2017年度国際ダブリン文学賞を受賞した。現代アンゴラのみならず、ポルトガル語圏諸国を代表する作家と目されている。作品はこれまで25の言語に翻訳されている。最新作はA Vida no Céu(2021)。
木下 眞穂 (キノシタ マホ) (翻訳)
上智大学ポルトガル語学科卒業。訳書にパウロ・コエーリョ『ブリーダ』『ザ・スパイ』(以上、角川文庫)、『ポルトガル短篇小説傑作選』(共訳、現代企画室)、ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ『忘却についての一般論』(白水社)、ゴンサロ・M・タヴァレス『エルサレム』(河出書房新社)、ジョゼ・サラマーゴ『象の旅』(書肆侃侃房)など。2019年、ジョゼ・ルイス・ペイショット『ガルヴェイアスの犬』(新潮クレスト・ブックス)で第5回日本翻訳大賞受賞。