
〈僕は自分の体に残っている傷跡の起源を知らない。〉
「僕には故郷がない。
懐かしい原風景もなければ、見慣れたものにまつわる記憶もなかった。
だから、どこにいても僕にとっては故郷であり母国だ。
誰であろうと僕の旧友であり家族だ。」
その日、僕はこの世界を養子に迎えることにした――。
朝鮮戦争の数十年後、ソウルのイスラーム寺院周辺のみすぼらしい街。
孤児院を転々としていた少年は、精肉店を営む老トルコ人に引き取られる。
朝鮮戦争時に国連軍に従軍した老人は、休戦後も故郷に帰らず韓国に残り、敬虔なムスリムなのに豚肉を売って生計を立てている。
家族や故郷を失い、心身に深い傷を負った人たちが集う街で暮らすなかで、少年は固く閉ざしていた心の扉を徐々に開いていく。
「僕はハサンおじさんに訊きたかった。
僕の体にある傷跡は、なにを守ろうとしてできたものなの? 僕にも守るべき魂があったの?
もしあったとしたら、僕の魂はなぜいまも貧しいの? なぜ僕は肉体も魂も傷ついたの?
僕の魂は肉体を守ってやれなかったし、肉体は魂を守ってくれなかった。
ということは、僕の魂と肉体はずっとばらばらだったのだろうか――。」
韓国でロングセラー。英語版とトルコ語版も翻訳出版された話題作
【著者プロフィール】
ソン・ホンギュ(孫洪奎)(著/文)
1975年、全羅北道生まれ。東国大学国語国文学科卒業。
2001年、「作家世界」新人賞を受賞し、デビュー。
短編集に『人の神話』(2005年)、『親書いわく』(2008年)、『トムはトムと寝た』(2012年)、長編小説に『鬼神の時代』(2006年)、『青年医師 張起呂』(2008年)など。
李箱文学賞、白信愛文学賞、呉永寿文学賞などを受賞。
2010年発表の本作で老斥里平和文学賞を受賞。
戦争という集団的狂気が人々にもたらす凄まじいトラウマと、人種や宗教等で人を区別することの無意味さを描いた本作は、英語版とトルコ語版も出版され、多くの読者を獲得している。
邦訳エッセイに、「絶望した人」橋本智保訳(『僕は李箱から文学を学んだ』クオン)。
橋本 智保 (ハシモトチホ) (翻訳)
1972年生まれ。東京外国語大学朝鮮語科を経て、ソウル大学国語国文学科修士課程修了。
訳書に、キム・ヨンス『夜は歌う』『ぼくは幽霊作家です』(新泉社)、チョン・イヒョン『きみは知らない』(新泉社)、鄭智我『歳月』(新幹社)、千雲寧『生姜』(新幹社)、朴婉緒『あの山は、本当にそこにあったのだろうか』(かんよう出版)、クォン・ヨソン『レモン』(河出書房新社)『春の宵』(書肆侃侃房)、チェ・ウンミ『第九の波』(書肆侃侃房)、ユン・ソンヒほか『私のおばあちゃんへ』(書肆侃侃房)、ウン・ヒギョン『鳥のおくりもの』(段々社)など。
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