日常にひそむ不安や欲望
家族の中で抱く孤立感
生きあぐね、もがく女たち
現代女性文学の原点となった
呉貞姫の作品集
朝鮮戦争を体験した著者の幼少期が反映された「幼年の庭」「中国人街」のほか、「三十代の内面の記録」という六編を収録。繊細で詩的な文章は、父の不在、家族関係のゆがみ、子どもや夫への愛情のゆらぎに波立つ心を描き出す。それは時代の中で懸命に生きる人の肖像でもある。
『幼年の庭』に描かれた韓国の女性たちの姿は、
同時代の日本の女性たちとも重なる部分があるだろう。
現代の韓国文学に日本の読者が共感するように、
幅広い層の心に響く小説集として
多くの人々に読まれることを期待している。
―清水知佐子(本書「訳者解説」より)
CUON韓国文学の名作シリーズ006
【目次】
幼年の庭
中国人街
冬のクイナ
夜のゲーム
夢見る鳥
空っぽの畑
別れの言葉
暗闇の家
著者あとがき
日本語版刊行に寄せて
訳者解説
【著者、翻訳者プロフィール】
呉貞姫 (オ ジョンヒ)(著/文)
1947年、朝鮮解放後に北朝鮮からソウルに逃れてきた「失郷民」の両親のもとに生まれる。ソラボル芸術大学文芸創作科卒業。大学在学中の1968年、中央日報新春文芸に「玩具店の女」が当選して作家デビューした。1979年に「夜のゲーム」で李箱文学賞、1982年に「銅鏡」で東仁文学賞など国内の主要な文学賞を多数受賞。2003年には長編小説『鳥』でドイツのリベラトゥール賞を受賞し、韓国人として初めての海外文学賞受賞であったことから大きな関心を集めた。『鳥』はドイツ語のほかフランス語、英語、ロシア語など十カ国語に翻訳されている。
その他の著書に、短編集『火の河』、『風の魂』、『花火』、掌編小説集『豚の夢』、『秋の女』、『活蘭』、エッセイ集『私の心の模様』(いずれも未邦訳)など。邦訳に『夜のゲーム』、『金色の鯉の夢』(いずれも波田野節子訳、段々社)、『鳥』(文茶影訳、段々社)などがある。
清水知佐子(シミズ チサコ)(翻訳)
和歌山生まれ。大阪外国語大学朝鮮語学科卒業。読売新聞記者などを経て翻訳に携わる。
訳書に、朴景利『完全版 土地』、イ・ギホ『原州通信』、イ・ミギョン『クモンカゲ 韓国の小さなよろず屋』(すべてクオン)、キム・ハナ、ファン・ソヌ『女ふたり、暮らしています。』(CCCメディアハウス)など。
シン・ソンミ『真夜中のちいさなようせい』(ポプラ社)で第69回産経児童出版文化賞翻訳作品賞受賞。