【紹介】
〈あんたの武器はあんた自身〉母さんは言った。あたしの武器はあたしだ。
奴隷の境遇に生まれた少女は、祖母から、そして母から伝えられた知識と勇気を胸に、自由を目指す――。40歳の若さで全米図書賞を二度受賞した、アメリカ現代文学最重要の作家が新境地を開く、二度目の受賞後初の長篇小説!
悲しみが霧雨になって降り注ぐ。スカートに指をこすりつけ、しだいに長くなってくる影のなかで地面に膝をつきながら、わが身の境遇につくづく驚かずにはいられない。この天涯孤独ぶりはどうだろう。こんなところで腰の片方には命を、もう片方には死を持ち歩いているなんて。
「どっち?」あたしは宙に向かって問いかける。「どっちを与えるべき?」夕暮れのなかを漂っていく自分の声を聞いて、少しだけ孤独がやわらぐ。
この同じ空のどこかで、あたしのミツバチたちも飛び回っているに違いない。(…)
この同じ空のどこかで、サフィも息を吸って吐いているに違いない。
「サフィ」あたしは尋ねる。「どっち?」(本書より)
【目次】
第1章 剣と化した母さんの手
第2章 縄に至る道
第3章 一連の喪失
第4章 川は南へ
第5章 嘆きの街
第6章 身を委ねる
第7章 真っ暗闇の驚異
第8章 塩と煙の捧げ物
第9章 燃える男たち
第10章 甘い収穫
第11章 やせ細ったしみ
第12章 渡し守の女たち
第13章 ふたたび星を見た
謝辞
訳者あとがき
【著者プロフィール】
ジェスミン・ウォード (著/文)
ミシガン大学ファインアーツ修士課程修了。マッカーサー天才賞、ステグナー・フェローシップ、ジョン・アンド・レネイ・グリシャム・ライターズ・レジデンシー、ストラウス・リヴィング・プライズ、の各奨学金を獲得、および2022年米国議会図書館アメリカ・フィクション賞を受賞。『骨を引き上げろ(Salvage the Bones)』(2011年)と『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え(Sing, Unburied, Sing)』(2017年)の全米図書賞受賞により、同賞を2 度にわたり受賞した初の女性作家となる。そのほかの著書に小説『線が血を流すところ(Where the Line Bleeds)』および自伝『わたしたちが刈り取った男たち(Men We Reaped)』などが、編書にアンソロジー『今度は火だ(The Fire This Time)』がある。『わたしたちが刈り取った男たち』は全米書評家連盟賞の最終候補に選ばれたほか、シカゴ・トリビューン・ハートランド賞および公正な社会のためのメディア賞を受賞。現在はルイジアナ州テュレーン大学創作科にて教鞭を執る。ミシシッピ州在住。
石川 由美子 (翻訳)
琉球大学文学科英文学専攻課程修了。通信会社に入社後、フェロー・アカデミーにて翻訳を学び、フリーランス翻訳者として独立。ロマンス小説をはじめ、「ヴォーグニッポン」、「ナショナルジオグラフィック」、学術論文、実務文書など、多方面の翻訳を手掛ける。訳書に、『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』、『骨を引き上げろ』、『線が血を流すところ』(以上作品社)など。