
2018年にニュー・アカデミー文学賞を受賞した、世界に誇るフランコフォン作家のマリーズ・コンデが今年2月に90歳で他界した。フランスのメディアは次々と特集を組み、フランス国立図書館で追悼式典が開かれた。コンデは作家活動のみならず、〈奴隷制を記憶するための委員会〉の委員長として当時のシラク大統領に働きかけ、〈奴隷制廃止記念日〉が制定されるなど社会活動にも尽力した。本書は、奴隷制の遺産を体を張って逆照射した作家の少女時代のメモワールである。
フランスの植民地だったカリブ海のグアドループ。裕福な黒人家庭の末子に生まれ、家ではクレオール語を使わず、何でもフランス式が最高だと育てられた。日常生活では黒人の歴史を知る手立てがなく、白人少女から差別を受け、疎外感を痛感することも。だが留学したパリで出会った友人や書物によって本物の人生に目覚めていく。ユルスナール賞受賞作。
目次
家族の肖像
私の誕生
階級闘争
イヴリーズ
歴史のレッスン
マボ・ジュリ
青い眼がほしい
失楽園
ママ、誕生日おめでとう!
世界一の美人
禁じられたことば
真っ正面からまる見えで
学校への道
森のヴァカンス
自由を我等に?
女性教師とマルグリット
オルネル、あるいは本物の人生
さよならマリーズ、またいつか――訳者あとがきに代えて
著者プロフィール
マリーズ・コンデ (マリーズ コンデ) (著/文)
1934年、カリブ海のフランス領(現海外県)グアドループ生まれ。16歳でパリへ渡り、ソルボンヌ大学で学ぶ。西アフリカで12年暮らしたのち、パリに戻り75年に比較文学で博士号取得。76年『ヘレマコノン』で小説家デビュー。以後、精力的に作品を発表。邦訳に『生命の樹』、『風の巻く丘』、『越境するクレオール マリーズ・コンデ講演集』がある。これまで多数の文学賞を受賞し、『心は泣いたり笑ったり』(本書)でユルスナール賞、2018年にニュー・アカデミー文学賞、21年にはチーノ・デル・ドゥーカ世界賞を受賞。
「奴隷制の記憶委員会」委員長として当時のシラク大統領に働きかけ、2006年に「奴隷制廃止記念日」制定を実現させるなど社会活動にも尽力した。24年4月2日逝去。同月15日にパリの国立図書館で追悼式典が開かれ、マクロン大統領が弔辞を述べた。
くぼた のぞみ (クボタ ノゾミ) (翻訳)
1950年、北海道生まれ。翻訳家・詩人。
著書に、『J・M・クッツェーと真実』(読売文学賞)、『山羊と水葬』、『鏡のなかのボードレール』、『記憶のゆきを踏んで』、『曇る眼鏡を拭きながら』(共著)など。訳書に、J・M・クッツェー『マイケル・K』、『鉄の時代』、『サマータイム、青年時代、少年時代 ――辺境からの三つの〈自伝〉』、『ダスクランズ』、『モラルの話』、『少年時代の写真』、『ポーランドの人』、『その国の奥で』、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』、『アメリカーナ』、『半分のぼった黄色い太陽』、『なにかが首のまわりに』、サンドラ・シスネロス『マンゴー通り、ときどきさよなら』、『サンアントニオの青い月』など多数。共訳に、ポール・オースター/J・M・クッツェー『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008‐2011』などがある。